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高知地方裁判所 昭和62年(ワ)208号 判決 1988年5月25日

原告

竹崎潤

ほか一名

被告

宮崎丹生

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ金四四〇万〇四一四円及び内金四〇〇万〇四一四円に対する昭和六一年六月一四日から、内金四〇万円に対する昭和六二年五月一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、それぞれ六〇〇万円及びこれに対する昭和六一年六月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの身分関係

原告竹﨑潤、同竹﨑千恵は、亡竹﨑浩子(昭和五六年七月一九日生・以下「亡浩子」という。)の父母で、亡浩子の相続人である。

2  事故の発生

亡浩子は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて死亡した。

(一) 発生日時 昭和六一年六月一四日午前一一時五八分ころ

(二) 発生場所 高知県安芸郡奈半利町乙一八三八番地先路上

(三) 被害者 亡浩子

(四) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(山形五六ほ七八八九)

(五) 事故態様 被害者が前記道路を横断中に、被告運転の加害車両が、指定制限速度の時速四〇キロメートルを超える時速五〇キロメートルで、かつ、前方不注視で南進し、加害車両が被害者に衝突した。

(六) 結果 被害者は脳挫傷・顔面擦過創の傷害を受け入院したが、脳挫傷を直接死因として、同月一六日午後一時一二分死亡した。

3  被告の責任

被告は、本件加害車両の保有者で、同車両を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

4  損害

(一) 亡浩子の死亡までの損害 一万五六〇〇円

亡浩子は、本件事故日から三日間、高知県安芸郡田野町の田野病院を経て、高知県安芸市の森沢病院に入院したが、その間の診療費は、被告と自家用車総合保険を契約していた安田火災海上保険株式会社が支払をしたので、診療費は損害額から除外する。

(1) 入院雑費 三六〇〇円

亡浩子の受傷は、脳挫傷等瀕死の重傷であつたので、入院雑費は一日当り一二〇〇円が相当であり、三日間で三六〇〇円を要した。

(2) 付添費 一万二〇〇〇円

亡浩子は前記のとおり瀕死の重傷で、しかも幼児であつたので、原告らが付添いをした。その費用は一日当り四〇〇〇円が相当であり、一万二〇〇〇円の付添費の損害を受けた。

(二) 亡浩子の死亡による損害 三五二七万一七四一円

(1) 自賠責保険請求の文書料 一三〇〇円

原告らは、亡浩子の自賠責保険請求のための文書料として、一三〇〇円を支払つた。

(2) 葬儀費用 八〇万円

原告らは、亡浩子の葬儀費用として、八八万六七六〇円を支払つたので、内金八〇万円を本訴で損害とする。

(3) 逸失利益 一九四七万〇四四一円

亡浩子は、死亡時四歳であつて、生前の知的・身体的発達は良好で、心身ともに健全であつたので、本件事故さえなければ、今後満一八歳から満六七歳まで四九年間就労可能であつた。

賃金センサス昭和六〇年第一巻第一表(抜粋)中、女子の旧中・新高卒一八~一九歳の年間平均賃金一五七万三五〇〇円を基礎とし、生活費の三〇パーセントを控除し、更に年五パーセントの中間利息をホフマン式計算法によつて控除した後の逸失利益の現価は、左記計算式のとおり一九四七万〇四四一円となる。

(計算式)

亡浩子は4歳であつたので,67歳まで63年(ホフマン係数28.0865)ある。

4歳から18歳まで14年(ホフマン係数10.4094)あるので、適用係数は28.0865-10.4094=17.6771となる。

157万3500円×0.7(生活費控除後の率)×17.6771=1947万0441円

原告らは、右額の二分の一あてを相続した。

(4) 慰謝料 一五〇〇万円

亡浩子の死亡により、原告らは最愛の長女を失い、多大の精神的苦痛を蒙つた。更に、亡浩子が瀕死の重態であつてその苦痛が甚大であつたことからも、各原告についての慰謝料は各七五〇万円を相当とする。

(三) 損害の填補 二〇五四万二九〇〇円

原告らは、自賠責保険から二〇五四万二九〇〇円を受領したので、法定相続分にしたがつて、各原告について一〇二七万一四五〇円を損害賠償請求債権に充当する。

(四) 弁護士費用 一〇〇万円

原告らは、原告ら訴訟代理人に本訴の提起・追行を委任したが、被告の負担すべき弁護士費用は、各原告について五〇万円が相当である。

5  よつて、原告らは、被告に対し、右4(一)(二)の損害合計額から(三)の填補額を控除し、その残額に(四)の金額を加えた各七八七万二二二〇円(円未満切捨て)のうち各六〇〇万円及びこれに対する本件事故の日である昭和六一年六月一四日から支払ずみまで民法に定める年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因12の事実は認める。

2  同3の主張は争う。

3  同4の事実のうち、(二)(1)の事実及び(三)の事実のうち原告らが自賠責保険から二〇五四万二九〇〇円受領したことは認め、その余の主張は争う。

4  同5の主張は争う。

三  被告の主張

1  逸失利益の算定について

算定基準となる賃金センサスは、全国の当該年間平均賃金(女子の旧中、新高卒の一八~一九歳の場合)によるべきではなく、高知県の当該年間平均賃金(賃金センサス―都道府県別年齢階級別平均賃金による)によるべきである。右全国平均賃金と右高知県平均賃金との間にはかなりの格差があるのが現実であり、本件の場合右高知県平均賃金によるのが公平だからである。

次に、中間利息をホフマン方式で計算する場合、生活費控除率は五〇パーセントが通常である。

2  過失相殺について

亡浩子は、交通整理が行われず、かつ横断歩道のない変則交差点において、車両の通過直後に、反対車線の加害車両の接近を全く確認しないまま、幹線道路に飛出し加害車両の直前を横断しようとしたものである。

また、亡浩子の監督義務者である原告らは、横断歩道のない本件事故現場を横断しないよう日頃から亡浩子を教育して本件事故を未然に防止する義務があるのにこれを怠つた。

これら被害者側の過失は、損害額算定について斟酌されるべきである。

四  原告らの反論

1  逸失利益の算定について

全国の平均賃金と高知県の平均賃金との所得格差が将来にわたりどのように変遷するか予測は困難であり、また最近の社会情勢からして、出生した県で一生を送るとは限らないことからすると、全国平均賃金を採用すべきである。

次に、生活費控除の割合は、中間利息の計算方式いかんにかかわらず、同一であるべきであり、女児については三〇~四〇パーセント控除するのが合理的である。

2  過失相殺について

本件は、亡浩子の直前横断による事故ではない。被告は、約四二メートル手前から本件交差点があることを認識し、亡浩子が同交差点に進入する可能性があつたのであるから、加害車両を直ちに減速し、その動静に注意すべきであつたのに、これを怠り、漫然遠方に視線を向け、指定速度である時速四〇キロメートル毎時を約一〇キロメートル越えた時速約五〇キロメートル毎時のまま進行した過失を犯している。そして、被告は、衝突地点の手前約二四・九メートルで亡浩子を発見できたはずであるが、漫然遠方に視線を向けていたため発見できず、約一九・五メートル手前で亡浩子を発見している。被告が指定速度である時速四〇キロメートル毎時を遵守していれば、一八メートルで加害車を急停止することができたのであるから、本件衝突は避け得たはずである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一1  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

2  本件事故の態様及び原因

(一)  前記争いのない事実に加え、成立に争いのない甲第六、第七、乙第二ないし第一〇号証、本件事故現場の写真であることは当事者間に争いがなく、その余は原告竹﨑潤(以下「原告潤」という。)の本人尋問の結果により原告ら主張のとおりと認められる甲第九号証の一、二、原告潤及び被告の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 本件事故現場は、高知県安芸郡奈半利町乙一八三八番地先の、同郡田野町から室戸市羽根町に通じる国道五五号線上で、右現場北方は、羽根町方面に向つてゆるやかな右カーブとなつていること

(2) 右道路は、片側車線、幅員八・一メートルのアスフアルト舗装された平板な直線道路で、前方に対する見通しはよく、本件事故当時の路面は乾燥していたこと

(3) 本件事故現場は、交通整理の行われていない変則な五差路で、国道五五号線上には中央に黄色実線(センターライン)がひかれ、同国道両側に歩道が設置されているが、同現場付近には横断歩道が設置されていないこと

(4) 右道路の速度制限は、時速四〇キロメートルであるが、本件事故現場から少し南方に行つた所では時速五〇キロメートルの速度制限になつていること

(5) 右現場付近は、市街地で民家もかなり点在するが水田もかなり残つている状況であり、右現場から南方約一〇〇メートル付近には国道五五号線を横断するために地下道が敷設されていること

(6) 右国道の交通量は比較的多く、本件事故直後の昭和六一年六月一四日午後零時四〇分から約一時間余りにわたつて実施された実況見分時の際には、五分間の交通量として、車約七〇台、歩行者約一人と記録されていること(その後実施された同月一九日、同年九月一日の各実況見分の際もほぼ同様)

(二)  前記甲第六、第七、第九号証の一、二、乙第二ないし第一〇号証、成立に争いのない乙第一、第一一号証、原告潤及び被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 被告は、普通乗用自動車を運転して、国道五五号線を高知県安芸郡田野町方面から室戸市羽根町方面へ時速約五〇キロメートルで南進し、本件事故現場付近にさしかかつたところ、約五九メートル先に、室戸市羽根町方面に向つて右側の歩道上に亡浩子を発見したものの、対向車がいたことから亡浩子が横断してくるとは考えず、更に約一六・九メートル走行した時点で前方約五〇〇メートル遠方を望見しはじめたが、亡浩子が幼児であるため、対向車通過後、道路向い側に横断を開始することも予想できたのであるから、被告としては、絶えず進路前方左右を注視し、亡浩子の動静に注視しながら進行するようにして事故の発生を未然に防止すべき義務があるのにこれを怠り、漫然時速約五〇キロメートルで進行した過失により、自車前方約一九・八メートルの地点に、折から右道路を横断している亡浩子を発見し、急制動の措置を講じたが間に合わず、自車前部を亡浩子に衝突させたこと

(2) 亡浩子は、昭和五六年七月一九日生まれで、本件事故当時四歳の幼稚園児であるが、車の通行が比較的頻繁な幹線道路で、交通整理が行われず、かつ横断歩道のない本件変則交差点において、室戸市羽根町方面から高知県安芸郡田野町方面に向う自動車をやり過した後、反対車線の本件加害車両の接近を確認しないまま、右幹線道路に飛び出した過失により、前記被告の過失とあいまつて本件事故を惹起したものであること

二  被告の責任

前記乙第四ないし第六号証、第一〇号証、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は本件加害車両を所有し、同車両を自己のため運行の用に供していたことが認められるから、自賠法三条により、亡浩子及び原告らがそれぞれ被つた後記認定の損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  亡浩子の死亡までの損害

(一)  入院雑費 三〇〇〇円

理由欄第一項で認定した事実によれば、亡浩子が死亡するまでの入院期間(三日間)中、一日当り一〇〇〇円を下らない雑費を要したと推認することができ、同推認を覆すに足りる証拠はないから、亡浩子の両親である原告らは、入院雑費として三〇〇〇円の損害(損害割合は各二分の一あて)を被つたものというべきである。

(二)  付添費 一万二〇〇〇円

理由欄第一項の事実によれば、亡浩子の年齢、受傷の程度等を考慮すれば、三日間の入院期間中、原告らは付添いを余儀なくされ、そのため一日当り四〇〇〇円を下らない損害を被つたと推認することができ、同推認を覆すに足りる証拠はないから、原告らは付添費として合計一万二〇〇〇円の損害(損害割合は各二分の一あて)を被つたというべきである。

2  亡浩子の死亡による損害

(一)  自賠責保険請求の文書料 一三〇〇円

請求原因4(二)(1)の事実は当事者間に争いがなく、原告らは一三〇〇円の損害(損害割合は各二分の一あて)を被つたというべきである。

(二)  葬儀費用 八〇万円

成立に争いのない甲第一ないし第五号証(第二、第五号証の各枝番一、二を含む。)、原告潤本人尋問の結果及び亡浩子の年齢、原告ら夫婦の社会的地位等を総合して右金額を本件事故と相当因果関係にある損害と認める。したがつて、原告らは右金額の各二分の一あての損害をそれぞれ被つたというべきである。

(三)  逸失利益 一六八九万八九五四円

(1) 亡浩子は、本件事故当時四歳の女児であつたが、本件事故にあわなければ一八歳から六七歳まで通常の女子として稼働可能であつたと推定され、労働省の昭和六一年賃金構造基本統計調査報告を基に逸失利益を計算すると、次のとおりである(被告は、逸失利益の算定につき、基準となる賃金センサスは、全国の当該年間平均賃金によるべきではなく、高知県のそれによるべきである旨主張する(事実欄第二、三1参照)が、右主張を採用できないことは原告ら主張(事実欄第二、四1参照)のとおりである。)。

ア 賃金センサス昭和六一年第一巻第一表の産業計、企業規模計の女子労働者の旧中・新高卒一八~一九歳の平均給与月額一二万二四〇〇円、年額一四六万八八〇〇円(122,400×12)

イ 同右年間賞与等一二万四五〇〇円

ウ 右ア、イの合計(収入金額)一五九万三三〇〇円

エ 生活費控除四〇パーセント

オ ホフマン係数一七・六七七一(原告ら主張のとおり)

カ 以上による逸失利益一六八九万八九五四円(円未満切捨て)

計算式

1,593,300×(1-0.4)×17.6771=16,898,954

(2) 原告潤は亡浩子の父として、原告竹﨑知恵は亡浩子の母として亡浩子の死亡により同人を相続したことについては当事者間に争いがなく、したがつて、原告らは各二分の一あて亡浩子の右損害賠償請求権を相続したものであり、その額は各八四四万九四七七円となる。

(四) 慰謝料

本件事故の態様、亡浩子の年齢等前記認定の事実関係のほか、前記各証拠によつて窺知できる諸般の事情を総合すると、慰謝料としては、原告らに各七〇〇万円が相当である。

3  小計 三一七一万五二五四円

右1、2の各原告の合計額は、それぞれ一五八五万七六二七円となる。

4  過失相殺 二八五四万三七二八円

本件事故の発生については、理由欄第一項2(二)(2)のとおり亡浩子にも過失があつたことが認められるので、原告らの前記1、2の損害額の合計額の一〇パーセントをそれぞれ減額するのが相当であるから、右減額後の原告らの各損害額は、各一四二七万一八六四円(円未満切捨て)となる。

5  損害の填補

原告らが、自賠責保険から二〇五四万二九〇〇円の支払いを受けたことは、その自認するところであるから、その二分の一である一〇二七万一四五〇円をそれぞれ差し引くと、残りは各四〇〇万〇四一四円となる。

6  弁護士費用 八〇万円

原告らが、訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち、各原告につきそれぞれ四〇万円を本件事故による損害として相当と認める。

四  結論

よつて、原告らの本訴請求は、原告ら各自において、被告に対し、本件事故についての損害賠償として各四四〇万〇四一四円及び内四〇〇万〇四一四円に対する本件事故当日である昭和六一年六月一四日から、内四〇万円に対する本件訴状送達の翌日である昭和六二年五月一日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横山光雄)

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